作品群「命のアンサンブル」
<作品1:手塩皿4.0洗朱塗 (40)>
作品群「命のアンサンブル」
<作品2:手塩皿4.0洗朱塗 (41)>
作品群「命のアンサンブル」
<作品3:手塩皿4.0洗朱塗 (42)>
作品群「命のアンサンブル」に込めた思い
~この思いを作品に添えて~
作品群「命のアンサンブル」
<作品1,2,3:手塩皿洗朱塗>
作品群「命のアンサンブル」に描かれている漆による絵は、宮沢賢治(1896~1933)の作品「セロ弾きのゴーシュ」をモチーフとしています。
「セロ弾きのゴーシュ」は、主人公の青年ゴーシュと動物たちの物語です。ゴーシュは町の活動写真館の楽団員でセロ係です。間近に迫った演奏会のための練習では、演奏が下手なためにいつも楽長に厳しく叱責されていました。 そこでゴーシュは自宅に帰ってからも朝方まで懸命に練習に励みます。ところが毎夜入れ替わりでゴーシュのもとに三毛猫、カッコウ、たぬき、ネズミが訪れ色々とセロの演奏を依頼してくるので、ゴーシュは、動物に罵声を浴びせながらも依頼に応えて演奏してあげます。演奏会は大成功で、アンコールでは楽長から突然指名されたゴーシュがチェロの演奏をして拍手喝采を浴びます。楽屋では楽長が短い間に随分上達したと褒めてくれます。ゴーシュは家に帰り、あのとき厳しく叱責して家から飛び出したカッコウを思い、すまなかった・・・とつぶやくのです。
宮沢賢治は、この作品で何を伝えたかったのでしょうか。読み方によって様々な解釈ができますし、実際にいくつかのテーマが組み込まれていると思いますが、私はこの作品から「自然の共生」というテーマが見えてきました。
ゴーシュと身近な動物たちとの交流を描くことで人間が自然に耳を傾けることの大切さを伝え、ゴーシュが活動写真館の楽団でセロの演奏に苦労することを描くことでアンサンブルつまり周りと調和することの大切さを私たちに伝えていると思うのです。
様々な音色の楽器が一緒に音を奏で合うオーケストラ、それぞれの楽器がそれぞれの役割を果たして初めて、楽器の音は音楽として響き合います。地球の自然の生態系は、オーケストラのアンサンブルに例えることができると思います。人間も含めた地球上の生き物はそれぞれ生態系の中で役割を持って生きており、そのおかげで様々な命が緻密な関係性を持って地球上で共生しているのです。オーケストラでは、一人でも音やリズムが狂うとアンサンブルを乱してしまいます。自然界でも同じことが起こります。もし、何かがその調和を乱すことがあれば、命のアンサンブルは崩壊し生命の危機に向かうことになるでしょう。自然界の命は調和の中で生かされているのです。当然、私たち人間も自然界の命の一つとしてその中で生かされているのです。
この作品群のタイトルは、音楽のアンサンブルのように地球上の命が調和して響き合うことで、私たちが生かされているということに感謝の気持ちを込めて「命のアンサンブル」としました。
作品群「命のアンサンブル」の漆の絵を完成させるにあたっては、蒔絵師の中山結以さんと私が「セロ弾きのゴーシュ」の内容について意見交換し理解を深め、私が絵に込めたい思いをまとめ、中山さんがそれをもとに図案を起こし、更に二人で検討を加えて図案を完成させ、中山さんがその思いを筆に込めて漆で描きました。
「命のアンサンブル」という作品群は、漆の絵に込める思いを育むことから始め、漆による器づくりから絵を描くまで、じっくり手間ひまかけて完成しております。縁あってこの作品群の器を手にとっていただいた方が、宮沢賢治が「セロ弾きのゴーシュ」に込めた思い、そして私たち作り手の思いを、物語の余韻とともに感じていただき、ご愛用いただければ幸いです。
私たちの願い、それは私たちの作品であなたの心にささやかな幸せを届けることです。
<フォトレポート>
<作品紹介>