作品群「ほんとうの幸い」
<作品1:手塩皿4.0溜塗 (43)>
作品群「ほんとうの幸い」
<作品2:手塩皿4.0溜塗 (44)>
作品群「ほんとうの幸い」
<作品3:手塩皿4.0溜塗 (45)>
作品群「ほんとうの幸い」に込めた思い
~この思いを作品に添えて~
作品群「ほんとうの幸い」
<作品1,2,3:手塩皿溜塗>
作品群「ほんとうの幸い」は、宮沢賢治(1896~1933)の作品「銀河鉄道の夜」をモチーフに描いています。
「銀河鉄道の夜」は、時空を超えた宇宙空間で繰り広げられる物語です。原作者である宮沢賢治の故郷は現在の岩手県花巻市です。宮沢賢治が住んでいたころの故郷は、現在に劣らず澄んだ夜空に満天の星が輝いていたことでしょう。そしてこの故郷の豊かな自然、そして宮沢賢治の天文学など様々な学問の知識と人間の真理を追い求める情熱が、このような舞台設定とストーリーに結び付いたことは想像に難くありません。
作品群「ほんとうの幸い」は、宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」に込めた思いを私なりに読み解き、その読み解いた思いを蒔絵師と共有させていただき絵付けを行いました。「銀河鉄道の夜」は読む人によって様々な解釈ができる内容ですが、この器を手に取っていただいた方が私たち作り手の思いに少しでも共鳴していただき器をご愛用いただければ望外の幸せに存じます。
さて、「銀河鉄道の夜」は、自信が持てず周囲との疎外感を感じている主人公の少年ジョバンニが、夢の中で友人カムパネルラと一緒に銀河を巡りますが、現実に戻ると実はカムパネルラが川で溺れた友人を助けて亡くなっていたことが分かるという物語です。物語の中でジョバンニは、銀河鉄道の旅での様々な体験や登場人物との交流を通し、人間のほんとうの幸せとは何かを見つめ直すことになりますが、次第にみんなのために本当の幸いをさがしにいくという思いが芽生え、ひとりの自立した人間として前向きな生き方を見つけていくというストーリーです。作品群のタイトルである「ほんとうの幸い」は、物語の重要なキーワードであるとの考えから付けさせていただきました。
それでは、この物語で宮沢賢治が考える「ほんとうの幸い」とはどういう幸せなのでしょうか。ジョバンニは、自分の家庭の都合で朝や学校帰りに働いていること、そしてそのために学校の仲間と遊べないこと、さらに家に帰ってこない父親のこと、これらのことで学校の仲間にからかわれている自分を受け入れることができず、気持ちで負けてしまい、それを理由に自分の周りの人間との関係を自ら遠ざけていました。銀河を巡る列車に親友カムパネルラと一緒に乗ってからもジョバンニは他の人と親しげに会話をしているカムパネルラに嫉妬をしています。つまりこれらのことは、今の自分がこうあるのは全て周りのせいである、と考えている故の行動なのだと思います。しかし、ジョバンニは友人カムパネルラと銀河を巡る旅で様々な人物と交流することにより、先ず自ら周囲の人々が幸せになるように行動することが自分の幸せにもつながっていくんだ、という前向きな考えを持つように変化していきました。宮沢賢治は、自信を失っている主人公の少年を夢の中で銀河の世界に誘い込み人と交流させることで、前向きに人生を歩む少年に成長させてしまったのです。宮沢賢治は「銀河鉄道の夜」を通して、悲しみを乗り越え幸せを見つけようとする本来人間があるべき姿を示そうとしたのだと私は感じています。
この度の作品群「ほんとうの幸い」の漆の絵を完成させるにあたっては、蒔絵師で会津塗伝統工芸士である大竹信一氏と私が「銀河鉄道の夜」の内容について意見交換し理解を深め、私が絵に込めたい思いをまとめ、大竹氏がそれをもとに図案を起こし、更に二人で検討を加えて図案を完成させ、大竹氏がその思いを筆に込めて描きました。
宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」で描いた五感に響く表現豊かな世界観と主人公ジョバンニの心の変化を漆の絵で表現することは難しいことです。せめてこの作品群を手にとっていただいた方が、宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」に込めた思い、そして私たち作り手の思いを、物語の余韻とともに感じていただければ幸いです。
私たちの願い、それは私たちの作品であなたの心にささやかな幸せを届けることです。
<フォトレポート>
<作品紹介>